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内藤 昭三 教授

内藤 昭三 教授

内藤 昭三 教授

元日本電信電話株式会社
情報流通プラットフォーム研究所 主任研究員
サイバー京都研究所所長

内藤昭三教授は元日本電信電話株式会社(現NTT)情報流通プラットフォーム研究所主任研究員で,ネットワーク,情報セキュリティが専門です。新型コロナウイルスの流行を踏まえ,内藤教授が日本および世界におけるネットワーク,セキュリティの現状と課題を語ります。

セキュリティとのバランス念頭に,デジタル化を推進

日本のデジタル化推進は必須の方向

‐コロナ禍を契機に社会のデジタル化,IT活用が進んでいます。2021年9月にはデジタル庁が新設され,さらにスピードは上がりそうです。

サイバー空間にもウイルスがたくさんあり,毎日のように新種が出ています。もちろんフィジカルもウイルスの変種など大変ですけれど,それに応じて生活様式が変わろうとしています。日本のデジタル化は世界から遅れているところがありました。それでも今はようやくリモートワークが広がり,最近ではデジタルトランスフォーメーション(DX:デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること,既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすという意味)の考えから,いろんな意味でデジタル化を推進しようという動きが活発化し始めています。政府はデジタル庁で推進していくのでしょうが,民間でも必須の方向だと思います。コロナ禍のリスクをチャンスにするぐらいのつもりで,やっていかざるを得ないと思います。

ただ,ネットワークへの依存度が高まると当然セキュリティのリスクが高まります。ネットワークとセキュリティは,相補的な車の両輪のようなもので,そのバランスを常に念頭に置くことが重要です。例えばZoomを授業に使う動きがコロナ禍で急速に広がりましたが,企業の中にはセキュリティの水準の異なるオンライン会議システムを導入しているところもあります。また銀行口座の認証は,どこまで徹底すべきなのかという点と,個人のプライバシーなどの点の兼ね合いがあります。自分たちがやりたいこととセキュリティのレベルとのバランスを考えソリューションを選んでいくことが大切です。デジタル化,オンライン化を推進するには,常にセキュリティとのバランスを念頭に置かねばならないということです。

サイバー攻撃にどこまで反撃できるか議論

‐国際的なサイバー攻撃が増え,しかも激しくなっているように思えます。

2016年の米大統領選挙でロシアの関与が話題となりました。防衛面でも,陸海空を超え宇宙やサイバー空間が第四,第五の戦場あるいは対応すべきスペースだとして,宇宙軍やサイバー軍を整備する国があるようです。サイバー攻撃対策は強化していかざるを得ないし,どこまで防御するのか国際的なコンセンサスも必要になるでしょう。ミサイルの敵基地攻撃能力の問題と同様,サイバー攻撃もどこまで逆にカウンター攻撃できるのか,攻撃してくるサイトをどこまで攻められるのかということは議論されています。ミサイル基地はたぶん自国にあるでしょうけれど,サイバー攻撃してくるサイトはそうとは限らない。国外にある基地にサーバーを置いてやれないこともないですからね。そういう対処技術は持っておかないといけないわけです。サイバー攻撃してくるところに対してどんな対抗手段が有効かということは,今後も議論されると思います。

民間レベルでもサイバー攻撃があります。ネットワーク上に多くの資産がありますからね。仮想通貨から始まってデジタル通貨,電子決済の仕組みでお金がやり取りされていますし,株券とか不動産の情報なども一種の電子データです。知財の情報などで日本の企業は頻繁に狙われています。大きな企業は常に,サイバー上の様々な攻撃にさらされています。完璧なセキュリティ対策というものはありませんので,対応策の準備も必要です。

ネットワーク上では基本的に情報は見られている

‐私たち一般市民も日常のサイバー攻撃,サイバー犯罪の脅威にさらされています。

電子決済とか電子マネーなどは便利なので使いたいですけど,簡単に狙われるところもありますから,常に注意を怠らないことが重要です。アプリなどには便利な機能がある半面,セキュリティの罠や危険が潜んでいると認識すべきだと思います。例えばネットワークが使いやすいからと,どこかその辺のフリーWiFiで接続すると,そこでは盗聴されたり情報が狙われていたりします。ネットワーク上では情報が基本的に見られている,常に盗聴,監視されているということですね。自分が送る情報は誰かが見ていると考えることです。常にそのつもりでネットワークを使ってアクセスし,自分の口座関連など個人情報を出すときには「これ,どこかで見られても大丈夫かな」と意識する。例えば,この情報に関してはきちんと暗号化して送るべきだなどと考えることです。難しいですけれど,常にそういうことを心掛けておくということは必須です。皆さんにはその意識,心掛けを持ったうえで,技術でより安全な未来を作っていく人材に育ってほしいと考えています。