
18世紀後半から19世紀にかけて起こった産業革命は, 蒸気機関という新しい動力の誕生をきっかけとするものでした。生産力の増大は, その後, 電気と石油の利用によってさらに加速され, 20世紀後半になると, 人類が必要とする量をはるかに超える生産能力を持つに至りました。その結果, いわゆる「量から質への転換」が起こり, それまでの大量生産は時代遅れとなり, 多品種少量生産の時代へ移行しました。その荒波の中で,世界の産業構造は大きく変化し, 新たな社会秩序が生まれてきました。
同様の現象は情報の世界にも生じています。しかも速度はずっと速いのです。最初のコンピュータが製作されてからまだ65年程度しか経っていませんが, その進歩は爆発的で, 演算速度と記憶容量の両方において信じられないほどの力を持つに至りました。大気の変化を記述する偏微分方程式を実際の気象の変化より速く解けるようになったことが, 数値天気予報の決め手でした。音声の分析と認識を人の発話速度に負けない速さでできるようになりました。記憶容量の壁もほぼなくなり,たとえば世界中の書籍をデジタルデータとして記憶することが可能になりました。人が一生を通して眼から取り入れた画像データをすべて記憶しておくこともできます。数え上げていくと, 限りがありません。このような情報パワーの増大は, 我々の生活や文化の質を変容させるに十分なレベルに達したに違いありません。
実際, 質的変化の兆候は, 21世紀に入って, この10年の間に急速に顕在化しつつあると感じています。便利な機能の実現とサイズの縮小の結果,携帯電話はほとんどの人のポケットに居場所を見つけ, とくに若者たちの生活様式を変えてしまいました。インターネットを通しての通信は, 光ファイバーによって, 文字はもちろん, 写真や動画データでさえ心理的に苦痛を感じない短時間でやり取りできるようになりました。インフラストラクチャとしての情報通信技術(ICT)は, 世界を瞬時に結び付けることによって, 地球上の金融・ビジネスをグローバル化し, 国や社会の在り方にさえ大きな影響を与えつつあります。もちろんこれらの変化は必ずしも好ましい方向ばかりではありません。コンピュータ犯罪のような負の側面を無視することもできません。その意味で現在はまさに転換の真っただ中, 大げさにいえば, 人類の将来にとってのターニングポイントに来ているといえましょう。
本学が母体とする京都コンピュータ学院の創立は1963年,コンピュータの揺籃期でした。学院はわが国最初のコンピュータ教育機関としてコンピュータの発展とともに成長し, 前途有為の人材を多数送り出してきました。その伝統と実績を継承する京都情報大学院大学の開学は2004年です。まだ生まれたてでしかも小規模ですが, 時代のターニングポイントにあって, しっかりと歩き始めました。本学は, 情報通信技術の更なる研鑽を積みながら, それが社会に与える影響を十分理解し, 正しい方向へ導いていけるような人材を育てたいと願っています。志を有する方であれば, 年齢, 経歴, 国籍を問わず門戸を開いています。文系理系に関わらず大学での勉学を終えたばかりの方はもちろん,すでに実社会で活躍しつつキャリアアップを目指している社会人,海外にありながら日本での勉学に興味を持つ留学生,私たちはこのような方々の入学を心から歓迎いたします。
京都情報大学院大学
学長
茨木 俊秀
Toshihide Ibaraki