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ウイズ/ポストコロナ時代の授業のあり方~どう変わり,どう対応するか~(2020/09/09)

『教育学術新聞』2020年9月9日

はじめに

ウイズコロナにおけるオンライン授業を振り返り,秋学期に向けてどのように対応するか検討している大学が多いと思われる。オンライン授業を継続するか,対面授業に戻すか模索が続いている。大学の対応に「一喜一憂」しているのは他でもない学生である。とくに,新入生の中には授業はおろか,キャンパス活動もできないまま「悶々」としているのではないだろうか。

まだ,オンライン授業の教育効率について調査結果が公表されていないが,多くの反省点も浮上している。ウイズコロナでは大学側対応の遅れ,インターネット環境の不備などネガティブな側面が露になった。同時に,対面授業のあり方を省みる良い機会ともなった。しかし,これはウイズコロナにおける「応急措置」的なものに過ぎない。大学は,将来を見据えた長期的展望に立って,ポストコロナ時代の授業のあり方を視野に入れて考える必要がある。

「オンライン授業は対面授業と同じくらい効果的であったか(Are Online Courses as Effective as In-Person Education?)」と題する記事(https://www.coursearc.com/are-online-courses-as-effective-as-in-person-education/)によれば,eラーニングの有効性を対面授業と比較することは困難であるという。どのような教育方法がより効果的であるかは即断することができない。なぜなら,教育効果の測定には,複数の可変性を考慮する必要があるからである。世論調査,分析および観察を踏まえて研究者が「オンライン授業と対面授業のどちらがより効果的か」という質問に答えようとしたところ,双方でそれぞれのアプローチに賛否両論があった。それではどう対応すれば良いのだろうかについては後述する。

新しい「オンライン授業パラダイム」の時代

「教育パラダイム」や「学習パラダイム」の言葉をよく耳にするが,その時代背景がわかりにくい。これについては,約10年ごとのアメリカの高等教育の歴史的変遷で考えるとわかりやすい。たとえば,1960年代は「学者の時代」と呼ばれ,研究が重視された。1970年代は「教員の時代」と呼ばれ,教育が注目され,学生の授業評価に焦点が当てられた。1980年代は「ディベロッパーの時代」と呼ばれ,ファカルティ・ディベロップメントが注目された。1990年代は「学習者の時代」と呼ばれ,学生の学習に焦点が当てられた。そして,2000年代は「ネットワークの時代」と呼ばれ,ネットワークによるコラボレーションが重視され,現在に至っている。(注:拙著『ポートフォリオが日本の大学を変える~ティーチング/ラーニング/アカデミック・ポートフォリオの活用~』(東信堂,2011年,1頁)。

ウイズコロナでは,ネットワーク時代の延長として「オンライン授業パラダイム」の時代に突入したのではないかと筆者は考える。「オンライン授業パラダイム」は筆者の「造語」である。ウイズコロナあるいはポストコロナ時代の授業は,「ハイブリッド型」になるのではないだろうか。「ハイブリッド型」とは,「教育パラダイム」と「学習パラダイム」を「ブレンド」した新たなオンライン授業形態を可能にするという意味においてである。しかし,それは「旧態」と同じということではない。これまでとは違った「教育」と「学習」のあり方を模索し,対面とオンライン授業を「同時並行」で行うという意味である。すなわち,授業方法と学習方法の「パラダイム転換」である。具体的には,「疑問形」で問いかけ,「疑問形」で考えて学ばせる方法である。これからの大学の学びには「?」(疑問符)が欠かせない。したがって,教員にはファシリテータとしての役割が求められる。

オンライン授業での教育の質の確保

教員は,バーチャル環境での学生とのエンゲージメントは難しいと考えている。PCの裏側に置かれた学生はひとりでやる気が出なかったり,多忙を理由に受講しなかったり,途中で脱落したりすることが多々ある。したがって,学習者の「モチベーション」をどのように維持させるかが難しいというのがオンライン授業のデメリットがある。そのための工夫が教員に求められるが,学生とのEngagement(関与)を築くことは「言うは易く行うは難し」である。筆者の学習者のモチベーションを維持する「仕掛け」については,「単位制を再考する~eラーニングによる学修時間をどう確保するか」『教育学術新聞』(2020年5月13日)で「ミニットペーパー・ポートフォリオとコンセプトマップ」の項目で紹介している。たとえば,コンセプトマップはポートフォリオを書く時に一緒に提出させていたが,これでは学習者のモチベーションを維持することは難しいと考え,そこで授業終了ごとに描かせて提出させることにした。各授業のコンセプトマップに学生の工夫・向上の跡が見られ,全15回を継続するバイタリティになっている。これをどのように最終ポートフォリオでまとめてくれるか楽しみである。筆者は,学習者が授業で何を学び,どのようにつなげるかに重点を置いている。

オンライン授業の教育効率

オンライン授業の成果を問うのは時期尚早かも知れないが,いくつかの事例がある。『ザ・ニューヨークタイムズ』紙(2020年6月13日)は,「仮想教室とオンライン学習が急増するにつれて,研究者は何が機能し何が機能しないかを定量化するために取り組んでいる」としたうえで,学生は原則として,コースによってはオンライン授業での学習効率が通常より低くなる傾向にあると分析している。ただし,ファシリテータまたはメンターがいる場合は,優れたパフォーマンスを発揮する。この指摘は重要である。授業にはフィードバックが欠かせないことを示唆している。オンライン授業はeラーニングで行われるため,どうしても顔が見えないことから学生とのフィードバックにも限界があり,無意識のうちに「eティーチング」に陥る危険性がある。

2020年7月4日,日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)主催第6回オンライン授業に関するJMOOCワークショップ「ポストコロナ禍時代の大学教育」が開催された。早稲田大学総長田中愛治氏は「コロナ禍での早稲田大学の対応とポストコロナにおける大学教育」と題して基調講演を行った。多くの教員はオンライン授業でかなり効果があったとの意見が紹介された。また,数年前から反転授業の有用性が叫ばれたが,録画収録など,教員の負担も大きいところから定着しなかった。しかし,今回の新型コロナウイルスの影響で全教員がオンライン授業を実践したことで,その可能性が見えてきたとその方向性を示唆した。

オンライン授業が教員から高い評価を受けていることと教育効率が良いこととは別問題であり,さらなる検証が必要である。調査結果が公になるまでには時間がかかると思われるが,筆者はオンライン授業での教育の質の低下を危惧している。その根拠として挙げたいのは,授業で最も重要であるフィードバックが欠如していることである。たしかに,ZOOMやGOOGLE MEETなどの双方向ツールを活用しているが限界がある。これらのツールはテレビ会議用であって,授業に適しているかどうかは,さらなる検証が必要である。これは反転授業においても然りである。反転授業は,教室外学習と教室内授業に分けて,前者で「理論」を後者で「実践」ができるというメリットがある。しかし,オンライン授業では教員と学生のフィードバックが円滑に行われないことから,そのメリットも「半減」している。

学修ポートフォリオ

近年,文科省の指導もあって「学修成果」の可視化が叫ばれる。「学修成果」には授業成果の可視化も含まれるが,学生が4年間で約124単位を履修して学士号を取得することを考えれば,他の教員の授業も直接・間接的に影響を与えることになり,そのことも考慮する必要がある。最近,「学修ポートフォリオ」が注目されている。これは学びの軌跡を振り返ってファイル(フォリオ)に収めたものである。学修ポートフォリオを導入している大学が徐々に増えている。学習成果は4年間の集大成でなければならない。4年間の学習成果をどのように可視化するか。多くの大学では,卒業研究あるいは卒業論文で代替しているが,これで学習成果と呼べるのか甚だ疑問である。これは「研究成果」であり,教員指導による3~4年次の学業の一部に過ぎない。

今,全米で注目されているのが,「卒業ポートフォリオ」と呼ばれるもので,4年間の学習成果を集大成したポートフォリオのことである。アメリカの大学では卒業論文に代えて,卒業ポートフォリオを導入する大学が増えている。卒業ポートフォリオの優れている点は,卒業論文では学業面しかわからないが,ポートフォリオでは4年間の学習プロセスを把握できる。論文の場合,内容が中心となるので,学生がどのように取り組んだか「技能・態度」の側面がわかりにくい。ポートフォリオの場合,学生がどのように考え,どのように振り返ったかを知ることができる。この「振り返り」が「深い学び」につながる。

卒業ポートフォリオも最近,紙媒体から電子媒体に代わっている。学生のモチベーションを維持するためにも,4年間で完成させる卒業ポートフォリオが望ましい。

ウイズコロナの「授業デザイン」

新型コロナウイルスの影響で「対面授業」用のシラバスを代替して授業に臨んだ教員も少なくなかったと思われる。ウイズコロナあるいはポストコロナ時代のシラバスには,これまでとは違った「用途」が求められる。それは対面とオンライン授業で併用できるものである。

シラバスを見直すことはもとより,その礎となる「授業デザイン」の見直しが先決である。具体的には,ウイズコロナの「授業デザイン」はどうあるべきかを考えることである。以下は,「ウイズコロナの授業デザイン」の私案である。

With コロナの授業デザイン

おわりに

週一回90分授業の見直しが必要である。実は,占領下日本の大学改革の議論では,週3回あるいは週2回の授業回数が俎上にあがった。週1回90分授業は,大学教員の研究時間を確保するための「都合」であったと言われる。学生にとっては「地獄」のような時間である。

オンライン授業を継続するのか,対面授業に戻すとしても「3密」が怖いなど,どちらにするか「躊躇」している大学も多い。この「3密」を避けるためにも週2回に授業を「分散」することも選択肢として考えられる。週2回の一つをオンライン授業で実践することで,自然発生的に反転授業につながるという「副産物」も生まれる。

冒頭の「オンライン授業は対面授業と同じくらい効果的であったか」というような短絡的な質問ではなく,オンライン授業と対面授業をどのように組み合わせれば,どのタイプの学生にどのような状況で学習を効果的にすることができるかとパラフレーズして質問すべきであろう。