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学習させる「仕掛け」~アセスメントと学習方法の整合性~(2021/12/15)

『教育学術新聞』2021年12月15日

はじめに

本紙「アルカディア学報708」(2021年10月13日号)で「観察された学修成果の仕組み~SOLOタクソノミー」をテーマに取り上げた。本稿では「続編」として,どうすれば学習者を「学習させる」ことができるかについて考える。このようなタイトルの本があれば,ベストセラーになること間違いなしである。誰もが知りたいところである。数年前,アンジェラ・ダックワース『Grit やり抜く力』(ダイヤモンド社,2016年)日本語版が刊行され,20万部を突破する売れ行きであった。これは従来のIQ(知能指数)だけでは成功できないことを裏づけた衝撃的な内容である。「やり抜く力」が一躍注目される契機となった。

なぜ,学生は学習しないのか,多くの教員が悩んでいるに違いない。2012年度帝京大学高等教育開発センター主催第1回FDフォーラムでは,ディ・フィンク博士を招聘して,「能動的学習~学生を学習させるには」と題した興味深い講演が行われた。タイトルからも,学生を学習させる「仕掛け」がアクティブラーニングにあるという内容であった。換言すれば,学生は「仕掛け」があれば学習するようになるというポジティブな考えに立つ示唆に富む内容であった。

なぜ,学生は学習しないのか。それは教室内における授業がアクティブラーニングではなく,受動的学習になっているからである。これは学生だけに「責任転嫁」することはできない。教員は「教育パラダイム」で,学生は「学習パラダイム」に立った「別次元」の授業が行われていることも問題である。すなわち,両者が隔離して整合性のない状態に陥っている。「整合性」のことを英語でアラインメント(Alignment)と呼ぶ。具体的には,教員の「教えたい意図」と学生の「学びたい意図」との間に隔たりがあり,「整合性」のないまま授業が行われている。

本稿では,「学習させる『仕掛け』~アセスメントと学習方法の整合性」と題して述べる。

「整合性」のあるコースと「整合性」のないコース

たとえば,教員は授業シラバスを準備するにあたり,15回の授業内容を系統立って学生に提示する。そこでは到達目標や各単元の授業内容などが詳述される。そして最後に成績評価のための採点基準が記載されるのが一般的である。教員の苦労とは「裏腹に」,学生の関心は最後の成績評価のところにしか目がいかない。このように教員と学生の間には隔たりがあり,「整合性」のないことが明らかである。

具体的な事例を,下の図表(イラスト)を動画の中から紹介する。これはSOLOタクソノミー開発者ジョン・ビグスの発案である。詳細は,https://www.youtube.com/watch?v=w6rx-GBBwVg&t=20s “Teaching Teaching & Understanding Understanding (3/3)” の動画「4. The Solution: Constructive Alignment(「解決:建設的アラインメント」)を参照。

https://www.youtube.com/watch?v=w6rx-GBBwVg&t=20s

図表の左側は,「教員の意図」と「学習者の行動」に整合性が見られない事例である。そこでの学習者の行動は「試験に対処する」ための形式的なもので,学習者の関心は「試験の評価」に向けられ,「記憶する」「記述する」にウエイトが置かれる。その結果,表面的な「浅い学び」になる。右側は,整合のあるコースの場合である。教員の意図と学習者の行動との間に整合性があり,両者は一致している。その結果,「深い学び」につながり,「試験の評価」も「教員の期待通り」のものになる。

バックワードデザインで整合性を確かめる

「整合性」については,「アセスメントと学習方法が同じ方向にそろっている」と考えるとわかりやすい。この「整合性」を確認するにはICEモデルが有効である。なぜなら,『「主体的学び」につなげる評価と学習方法~カナダで実践されるICE』の著書のタイトルからもわかるように,評価(アセスメント)と学習方法が一体化しているからである。

「整合性」があるかどうかを確認することは容易でないが,「バックワードデザイン(逆向き)」で考えることで可視化できる。

これまでのFD(ファカルティ・ディベロップメント)だけでは「学習パラダイム」に対処できなくなり,新たな開発が必要になった。これを契機に北米ではFDに「学習(Learning)」を加えてCenter for Teaching and Learning, CTLが生まれるようになった。すなわち,アメリカは「学習パラダイム」に対処するためにCTLを拡充することで「難局」を乗り越えたという歴史がある。

帝京大学高等教育開発センターは,世界を代表するFD関連団体の代表者をアメリカ,カナダ,オーストラリアから招聘して3年にわたり国際シンポジウムを開催した。3年間の共通テーマは「学習者中心コースデザイン」であった。そこで注目されたのが新たな教授法「バックワードデザイン(逆向きデザイン)」であった。これはその名の通り,授業デザインを考えるときに学習者の視点に立って,成績評価基準からはじめるというものである。

なぜ,成績評価基準からスタートするのが効果的か。それはバックワードデザインすることで,教員の意図する授業と学習者の意図する学習の間に「整合性」を持たせることができるからである。

したがって,学習者中心の授業シラバスを作成するには,1)バックワードデザインあるいは統合されたデザインであること,2)アセスメント(教育的評価)を用いていること,3)学生の動機づけが明確であること,さらに,4)質問形式の授業形態であること,5)長期的かつ多面的な学習目標を有していること,6)測定可能な学習目標を立てていること,7)学習アセスメントと学習活動が詳細であること,8)詳細なコース・スケジュールになっていること,9)歓迎するようなトーンで動機づけられていること,10)学生の成功に焦点が当てられていることなどを心掛ける必要がある。

まとめ

本稿で取り上げた「学習させる『仕掛け』~アセスメントと学習方法の整合性~」は,教員の意図と学習者の意図との間に整合性を持たせることで,学生に「学習させる」効果があることを述べた。前掲図表は「教員の意図」を起点としているが,「学習者の行動」からバックワードデザインで考えることで,より整合性を持たせることができると考える。

この前掲の図表で重要なことは,教員の意図を「動詞」で表現し,同じ「動詞」を使って学習させることで一体化を促し,結果として「試験の評価」を上げるというものである。ここでも「動詞」の活用が鍵になっている。これまでは「教育パラダイム」に立脚し,「知識を伝授する」ことに重点が置かれた。「学習パラダイム」では「学習を生み出す」ことに「転換」された。「学習を生み出す」には,学習者が主体でなければならない。そのためには,学習者が何をどのように学んだかを「動詞」使って表現するしかない。