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2007年6月 ラウンドアバウト

ゴールデンウィークの時などに,道路渋滞予測が公開され,天気予報ほどの信頼感を持たれているかどうかは別として,行楽計画にある種の目安として利用されているようです。この予報には当然過去の各種データに基づく統計処理がなされているわけで,経済における予想の確度より少しはよい精度で当たっているというのが一般的な受け取り方でしょうか。さらに,走行車に対するオンラインの交通情報は,走行車のナンバーの自動読み取りが実施できるようになっていることもあり,個々の車の走行状況を正確に捕捉でき,精度のよい予測や信号コントロールができるようになってきています。しかし,例えば走行車に対して抜け道情報的な推奨コースを提示しようとすると,複雑なモデル化と決定プロセス・適切な評価基準の設定,さらには心理的な状況を車の走行状況から読み取るといった未解決な(しかし興味ある)問題を解くことが必要となってきたりします。考えてみれば,このあたりのことはビジネスにおける顧客モデルの作成や顧客情報の利用,市場の動向などのデータを活用したビジネス戦略の決定問題等におけるモデル化と計測,最適戦略問題と同一の範疇に属すことでもあり,若い方々の柔軟な発想に基づく挑戦が期待されるところです。

ところで,ITを利用したこのような交通情報システムとは別に,昔から,ITどころか信号機もない交通システムが存在し,それなりに有効に機能しています。ヨーロッパで車を運転された方は体験されたと思いますが,「ラウンドアバウト」という方式です。これは,イギリスで特に多いのですが,その他の国でもよく見かけます。以下では車が左側通行のイギリスを例にとって記述しますが,その他の国では左右と回転方向を逆にしていただければ,ほぼそのまま当てはまります。この方式は,交差点ではなく仮想交差点を中心とした環状路を経由して進路変更(直進を含め)するものです。円環に入る場合には右側を見て車が円環内右側に存在しなければそのまま時計方向に回る形で進入(図1),右に車が存在すれば,一時停止して,やり過ごしてから進入(続いておればしばらく待つ)(図2),基本規則はこれだけです。(右絶対優先と捉えるとわかりやすいでしょう)。すべての車がこの規則を守る限り危険はなく,事実ほとんどの車(感覚的に行って99パーセント以上)がこの規則を守っており,危険なことはありません。流れはスムーズであり,環状内(右に見える部分)に車がいない限り停車することなく,進行できます。といっても確認のため自然と徐行することになり,安全確認が励行されることになります。交差点ですべて車は左折モードなので,その意味でも容易で安全です。直進や270°(右折に該当)方向に進行する場合は,円内が2車線以上あれば,右側(中央より)路線を走行し,交差環を出る少し前に最外周左側に車線変更することになります。すべての車が右側通行車優先の原則を頭に入れておけば問題はありません。さらに,なれていない路線走行の場合には,何度も環状内を回りながら道路上の行き先表示を確認することができ,確認できた段階で進路方向へ左折して行けばよいことになります。間違った路線に出てしまったときも,あわてずに次に出てくる(であろう)ラウンドアバウトで180°回転(Uターン)をすればいいことになります。はじめは少しとまどうかもしれませんが,なれれば不必要な信号待ちのない快適な走行ができます。

図1
図1
図2
図2

ラウンドアバウトの大きさはいろいろありますが,本当に小さな円(内側の白線が半径1mくらい。その上も走行可能で,通常の交差点と見かけ上変わらないようなもの)から,数十mを越えるもの,さらには,ラウンドアバウトのはしご(2つ以上つづくもの)等もあります。交通量がそれほど多くなければ(また,ドライバーが基本動作を遵守すれば)理想的な交差点システムと感じています。さすがに大量の車が走行する部分ではラウンドアバウトの形状を取っていても信号が設置される場合もあります。図3はリスボン(ポルトガル)の街中の大きなラウンドアバウトで,車は右側通行のため周回方向は反時計回りとなっています。横断歩道もあるためその部分では信号が設置されています。

図3
図3

このように,基本は単純なものであっても法令遵守の心があればシステムとしてうまく働くものです。近年のいろいろな社会問題もその基本に法令(の精神)をその根本に置いて遵守するということが,すべての人にできれば,ほとんど発生しなくなることでしょう。

イギリスをはじめ,多くの欧州各国では基本的にルールは守るものということが徹底しており(そのルール自身は合理的・論理的なもの),例えば,見通しの悪い道路では中央線を越える対向車はありません。(といっても外国人も運転するので,100%確実ではありませんが)。トラックが追い越し車線を走行し続けることもありません。安全・快適なドライブが楽しめます。

ある時,アイルランドの郊外の道路で,トラックを追い越すためにスピードを上げて追い越し車線に出ようとしたとき,そのトラックが右ウインカーを出して路線を右へ変更しました(私たちの進路を妨害する感じです)。左に障害物があったわけではありません。その時は「えっ」と思ったのですが,しばらくしてその理由が判明しました。私の視界では全く確認できなかったのですが,前方の細い道から車が右折進入で道路に入ってきていました。結局そのトラックは私たちに前方の状況(そのまま走行すると事故になる危険がある)をその動作で示してくれたことになります。その後すぐにそのトラックを追い越すときに,手を挙げると笑ってウインクを返してきました。

このような,その場の安全に対する総合的な心配りまでできる余裕と品格を備えたドライバーに対して,これこそプロだなあ,と感動と敬服の念を抱いたものです。どの分野でもスペシャリストたるものは,このような専門家魂のあふれる広い心と正義感を持って行動できるようになりたいものです。

英保 茂