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2009年3月 表と裏

表と裏(はてな?)

さて,下の3枚の写真を見てください。これは東映アニメの主人公の一人のお面の写真を撮ったものです。(プリキュア5のキュアドリーム)

一番目の写真は向かって右から見たものであり,次のものは中央から見たもの,最後のものは左から見たものです。小さな写真になっていますので,よく注意をしてみていただかないとわからないかもしれませんが,右から見ているときは右の方を,中央は中央を,左に来ると左を見ているというように感じられることと思います。つまり!このお面はあなたの移動に沿ってその顔の向きを変えている。お面はあなたを追っかけているということになります。(もちろんこの面は動いておらず,移動したのはあなたです。)どうしてそうなるのでしょうか?

このお面は少し変であることにお気づきと思いますが,実は面を裏向けて撮影したものです。通常の表側を撮像した場合は,正面を向いているお面の場合,右から眺めると眺めた方向に対して左側を向いている(よそ見をしている)ことになります。これは面が動いていないので,あなたが動いてもそのまま正面を見続けているためです。(当然ですね)

つまり,お面は普通に見ると素っ気なく(?)そこに存在する物体ですが,それを裏返したとき,それはあなたを見つめ出します。一度機会があれば確かめてみてください。お能の面なんかはもっとリアルではないかと想像したりしています。ものには命が宿っていて,裏の世界が出現したとき,時々それが目を覚ます・・・・!?

このような現象は,世の中で時々話題となる「超常現象」の(軽微な)一種ととらえることもできます。

上記の現象は誰でも,照明などを適当に設定すれば,見ることができ,その意味では「お面があなたを見続ける」ことは紛れもない事実として,(純真な・素直な心を持っておれば・・)受け止めることとなるでしょう。しかし,「何かおかしい」というのがこれまた充分に教育を受けた人の受け取り方だと思います。

この現象・感覚的な受け止め方はいくつかの要素が重なって生じています。まず面は裏向きですが,裏向けの顔は通常見ることがありません。従って見ているものが顔だとわかると,その瞬間から裏向きとは受け取らず,普通に顔として認識します。ここで,照明が一様になされていると,左側に移動すると,鼻の(向かって)右側が左よりも多く見えるようになります(へこんでいるので)。ということはその顔は左を向いたと感じることになるわけです。同様にして右に移動すると,右を向くということになります。すなわち,面があなたの方を追いかけて見つめているということになるわけです。

もうすこし説明を加えますと,鼻は本来凸であることは常識と経験に基づく確固たる事実として記憶中枢に存在しています。ここで実際は凹になっている(面の裏の)鼻の部分は,凸状であるはずという認識と,視覚から受け取った情報が混合することにより,顔の向きに誤認識が発生することになります。

世の中にはいろいろな超常現象がテレビなどでも取り上げられておりますが,それらのほとんどは,特別なものでなく,何らかの通常の現象であると説明が付くものだと思います。

やっかいなのは,体験あるいは感覚的に受け入れてしまったとき,その通り(不思議な現象)だと信じ込んでしまうことにあります。さらに,科学的なこと以外になると,何が真実かということを正しく把握するのは困難な場合もあります。絶対的な真実は不明・不確定な場合も多く,その気になれば,統計データを変更しなくても,採用する部分をうまく選択し,それらしく言葉を付け加えれば,いろいろな結論(正反対のものさえ)を導き出せたりもします。いずれにしても,表面的な正しさではなく,隠されたあるいは奥に潜む真の姿や意図をとらえる目を養うことは,実生活のみならず,政治やビジネスの場においても,きわめて重要なことでしょう。そのためには,知識を獲得するとともに,読解力や教養を身につけることを常に心がけたいものです。

このテーマは数年前までTV放映されていた「伊東家の食卓」という番組の担当者から,視聴者からの質問に基づく問い合わせがあったことがあり,そのときに,電話で行った説明を思い出しつつ書き下ろしたものです。結局,視聴者の興味を引くような映像作成はちょっと難しいですねということで,放送には採り上げられなかったと記憶しています。

英保 茂